2025年7月号 大丸から高島屋まで「御堂筋を歩く」
前回「キタ」の「うめきた公園」を歩きました。今回は「ミナミ」の開発の目玉でもある御堂筋を歩きましょう。大阪メトロ御堂筋線心斎橋駅から地上に出て驚きました。大丸前の歩道が銀杏並木のところまで広げられているのです。車道は中央に4車線しかありません。この幅の広い歩道はナンバの高島屋の前まで続いています。

拡張された大丸前の歩道
これで驚いていてはいけません。大阪市は歩道の拡張は第一段階で、最終的には車道をなくし、新橋交差点である大丸前から南の高島屋前までを完全な歩行者天国とする「人中心のフルモール化。2037年完成」を目指す将来計画をたてているそうです。
御堂筋が全車線南向き一方方向になったのは1970年でした。その後南北の道路整備が進められたことや車社会の変容、人口減少などの社会変化を背景に、このような街づくりが進められているようです。歩道が広くなっただけではなく御堂筋と交わる東西の通の表示版も刷新されています。広くなった歩道をナンバに向かって歩いてみましょう。
<鰻谷通の表示>
最初の通は「鰻谷北通」「鰻谷南通」です。新しいデザインのビルの立ち並ぶ近代的な通にはふさわしくない鄙びた名前は、もともと堺筋にあった地名がその由来とか。その昔、長堀川の川筋には「牡蠣舟」が浮かんでいて、シーズンオフの夏には鰻を提供していました。その鰻は出雲から早飛脚で生きたまま運ばれていたという話があるのですが、残念ながら鰻谷の地名には関係はありませんでした。もう一つ余計な話ですが、淀屋橋南詰めに浮かんでいる大阪最後の牡蠣舟と言われる「かき広」さんは、牡蠣のシーズンである11月から3月の季節限定で営業しているそうです。
大丸前を過ぎると道路わきには有名ブランドの店が並んでいます。長身のドアーボーイが立っている店は、かなり敷居が高そう。飴色?のライトが輝いている高級感あふれる店内に日本人は少ないようです。

軒を連ねる高級ブティック
大阪の南北の通りは○○筋、東西は○○通といわれています。ところが御堂筋と交わる通に「清水谷筋」「周防町筋」「八幡筋」「三津寺筋」など、東西通なのに「筋」があるのです。江戸時代の地図を見ると「戎橋通」「堺筋通」と○○通と書かれているものが多いようで、筋や通の区別はどうやら最近のことで「幹線道路に限る」というのが正解のようです。
御堂筋の、特に東側の歩道は、以前は人とぶつかりそうになったり、乳母車が邪魔になったり「信号を無視して渡ってやろうか」と思うことが多々ありました。特にインバウンドという言葉が使われるようになってからは、ぶらぶら歩きができないほど人が増えました。しかし、幅の広い歩道のおかげですいすいと歩けるようになり♪オー・シャンゼリーゼ♪と歌いたくなりました。(パリには行ったことはないけど)。
かなり昔の話ですが、心斎橋筋を歩く「心ブラ」(東京の銀座通りを歩く「銀ブラ」に倣って使われた)が流行ったことがありました。しかし、今回の御堂筋の歩道の拡張によって、人の流れが変わり御堂筋を歩く「御堂ブラ」が復活するかと思います。
三津寺筋の角にあるビルの一階を覗いてください。そこには文化5年(1808年)建立の三津寺の本堂が納められています。聖武天皇の時代に行基によって作られたと伝えられる三津寺ですが、元はかなり広い境内を持っていました。街中の寺社の例にもれず、時代が進むにつれて敷地が狭くなったのですが、今日の広さになったのは1937年(昭和12年)御堂筋の工事に敷地を提供したからだそうです。曳家した本堂の真上をビルとする寺院・ホテル・商業施設一体型複合施設になっています。私が訪れたときは、新しいお堂で僧侶が読経を上げていました。伝統と現代が組み合わさった寺は、御堂筋の新しい名所になるのではないかと思われます。

ビルの中の三津寺

数珠を繰る観光客
お堂の前には大きな数珠がぶら下がっています。ホテルから出てきた外人に「ぐるぐる回したら幸せが来る」と言ったら、皆で数珠を回して楽しんでいました。
道頓堀の手前が宗右衛門町通で、御堂筋の西からは久左衛門町通と名前が変わります。道頓堀をはじめとして、大阪市内には開発者の名前が付けられた橋や通が沢山あります。公共の設備に金を出す大阪商人は、もちろん使用権を得て利益を得ましたが、金銭以外の目的「より良い大阪の街」という願いも強かったのではないかと思います。御堂筋の再開発も大阪に金銭的な利益以上の「利」をもたらすことを祈りました。
大きなグリコの看板を左に見ながら道頓堀川を渡ると、ミナミの中心の道頓堀です。一度はすき焼きを食べてみたい大正8年創業の老舗肉屋「はり重」の前も、写真のように広くなりました。

はり重の前
はり重のすき焼きは、割下を使った関東風です。はり重から南方向へ行く歩道は、たこ焼き屋やラーメン屋、そして地下道への入り口があるからかでしょうか、いつも人が一杯です。ところが歩道の改良の効果か、それとも歩いた時間かな、とにかく人を気にせずに歩けました。

千日前通
目の前に千日前通が見えたところで、今日の街歩きはここまでです。次回は、広場になった高島屋の前からなんばグランド花月、道具屋筋そしてなんば駅の南にできた「ナンバ・シティー」「ナンバ・パークス」を歩いてみる予定です。お楽しみに。
(文と写真:天野郡寿 神戸大学名誉教授)






































































